#43 CSRと人権の違い

CSRの捉え方は国、文化、人種、あるいは企業によって異なっている。また、異なっていても不思議ではないと思う。しかしながら、企業側にたったときにいえることは、企業トップがどの程度社会に対する責任を感じ、そしてどのような貢献をしていくのか、という大きな柱がない。どのように責任を果たし、そしてどのような社会貢献をしていくのか、というのは個別企業トップそしてその企業のCSRの活動を通じて実現されるのであろう。したがって、同じ業種においても、A企業のCSR活動とB企業のCSR活動は異なっていて全く不思議ではない。しかしこのようなトップダウンCSRに限界が生じているのが人権問題であるとビジネス&人権リソースセンターのクリストファー・アベリーは指摘している。彼の主張は、人権問題は個人の意識の問題なので、会社におけるトップダウンで人権に対する意識が高まるわけがない、というところだ。CSRでも環境や慈善活動などはトップの号令でまとまりやすく、やりやすい活動である。おそらく日本を代表するグローバルな企業でもその取締役会の人種構成など極端に日本人に偏っている現状から考えると、トップダウン的な経営手法に慣れ親しんだ日本企業にとって、人権問題は最も不得手とするところであろう。個人に対して仕事上の責任や役割をトップダウンで課し、そして会社の名前を汚さないよう・迷惑をかけないように身の回りの社会では優等生として振舞う、ということについては非常に優れているが、個人対個人として人格・人間性を尊重するということはトップダウンでコントロールすることができない。あくまでも個人の問題である。どんなに大手の会社でも、役職がどんなに高くても、社内でのセクハラや通勤における痴漢行為などが頻発するのは自己および他人の人権を尊重するという意識が低いためなのであろう。
アベリー氏の指摘としては、数あるCSRの活動分野において、企業は自社の能力、リソースなどを考えながら本業に最も効果があり、かつ、社会利益の創出できる活動に配分していく。したがって、A企業では環境への対応策が優れている一方で社会貢献については遅れていたり、B企業では地域社会貢献は優れているが、環境には対応が遅れていたりする。しかし、このような企業のトップダウンによるCSR向けリソース配分は必要であるし、そうでなければならない。これと人権は別カテゴリーである。人権問題はCSRの一分野であるが、同時に個人個人の意識の問題である。この意識付けを企業として達成することができるのかどうか。これはトップダウンフレームワークづくりはできるかもしれないが、全社員が合意の上で実践していくことは非常に難しい。したがって、アベリー氏の意見としては人権に対する企業のアプローチそして実践をみていくことが非常に大切で、企業にとっては、人権問題に正面から向き合うことで企業のCSR活動およびブランド価値は向上する、としている。同感である。このような問題にきちんと向き合うのか、日本の大企業に期待したい。

参考記事
CSRと人権問題の違い」コーポレートシチズンシップブリーフィング
Reference Article: Christopher Avery, “The difference between CSR and human rights,” August/September 2006 issue 89, Corporate Citizenship Briefing.