#26 サイバーチェイス:算数猛特訓テレビ番組

アメリカのNHKにあたるPBSという公的なTV会社がある。ここの事業運営費は補助金のほかに大企業や個人からの寄付で賄っている。PBSを観ているとしょっちゅう運営費への寄付を訴える番組をやっている。しかし、アメリカ版NHKだけあり、放映している番組の中にはかなりまともでためになるものもある。たとえば、先日、世界で2番目の資産家ウォーレンバフェット氏が世界第1位の資産家であるビル・ゲイツ氏の慈善基金に巨額の寄付をすると発表されたが、その翌日にはPBSでバフェット氏とゲイツ夫妻の3人のインタビューが放映された。CSRの分野だけでなく、世界のビジネス界に良い意味で大インパクトのあった出来事だったので、このインタビューはまさにタイムリーな番組であった。そのようなことができるパワーがあるのがPBSである。
PBSは子供向け教育番組にも力をいれており、サイバーチェイスは子供の算数力向上を目的とした番組である。これまで4シリーズ放映されてきていて、ITの代表的企業であるインテルとその慈善基金、そしてナショナル・サイエンス・ファンデーションがメインスポンサーとしてこのシリーズを支えてきた。ここに今回第5シリーズから大手会計会社のアーンスト&ヤングと大手航空・防衛機器メーカーのノースロップ・グラマンが新たにスポンサーとして加わった。アメリカの大学や大学院に留学したことがある人であればよく知っていることだが、アメリカ人の算数・数学力は非常に低いレベルにある。将来的な科学・産業競争力を維持するために、アメリカの政府や教育界は算数の教育にとても力を入れている。このような低学年の教育問題に公的なサービスそして民間企業のリソースが力を合わせて取り組んでいることはCSR的に非常に評価できる。そして、このTV番組自体、今回が第5シリーズとなり、そこに新たなスポンサーが加わったとなれば第6、7シリーズも製作される可能性が高いであろう。CSRの持続的な取り組みが実践されている。
問題点といえば、世界的に紛争が絶えず、アメリ国防省の責任問題が出てきている中で、大手防衛機器メーカーのノースロップ・グラマンの寄付である。イラク戦争後、軍事・防衛に予算が大きく振り向けられている現状からいえば同社の業績は非常に好調である。資金があるからとりあえず聞こえの良いCSR活動をやっておこう、という感覚なのか?あるいは真剣に将来の航空・防衛を担う数学に強い若者を育てるためのCSR活動なのか?このような活動への支援を持続的に同社は継続するのか、今後の同社の対応をみていきたい。

参考記事
「子供向け算数アドベンチャー番組に新たなスポンサーがつく」CSRwire
Reference Article “CYBERCHASE, The Animated Math Adventure Series for Children, Adds Two New Funders for Its Fifth Season on PBS KIDS GO!” September 1 2006, CSRwire, Business Wire.