#11 ウォルマート、フェデックス、CSRとNPO

よく環境問題などで耳にするのは京都議定書に参加している日本・ヨーロッパと参加していない米国で各国の企業の環境への取り組みが違う、ということである。参加している日本やヨーロッパの国の企業は環境問題に「真剣」に取り組んでいるが、参加していない米国の企業は「遅れている」といったことである。はたして本当にそうなのだろうか?まず、京都議定書に参加・不参加というのは国家レベルの話なので、そこに属している企業が環境問題に真剣か否かとはあまり関係ない。とくにグローバル企業であれば、活動拠点は世界にまたがるので、本社のある米国が京都議定書に参加していようとしていなかろうとあまり自社の環境への取り組みにネガティブな影響はないと考えられる。さらに、エネルギーの自由化が進むアメリカでは、各州でエネルギー・環境政策が行われているので、国として京都議定書に不参加だが、州レベルでみると積極的に環境対策に取り組んでいるのがわかる。カリフォルニアやニューイングランド地方では早くからエネルギー対策がとられ、環境に対しても厳しい州レベルの規則ができている。
たとえば、オーガニック主体のスーパーであるホールフーズマーケットでは随分と前から、買い物バッグを持参した買い物客にはディスカウントをしている。HPやDellなどのプリンターカートリッジを購入すると使いきったものをリサイクルに出す封筒が入っていて郵送コストは業者負担である。わざわざインク漏れを気にしながら店にもって行かなくてもよいのだ。
また、米国が京都議定書に参加していない理由の一つにBRICsの存在がある。BRICsの中国とインドは京都議定書に参加しているが、具体的な削減目標が課せられていない。急成長し温暖化ガスの排出でもトップレベルの中国とインドに削減目標を課せられていない京都議定書の効果はどの程度のものだろうか?また、ロシアは参加していて削減目標も設定されているが、1990年以降、長期の経済低迷に陥っていたため削減水準をクリアーすることが困難ではない。このように各国に温暖化ガス削減を求めるのも重要ではあるが、温暖化ガスの問題は地球規模である。ある国が削減を果たしても隣の国がより増やしていたらネットでみれば削減効果は失われてしまう。昨今、温暖化問題に注目があたり忘れられがちだが、国境を越える環境問題では「酸性雨」の問題がある。ドイツの森林の酸性雨による被害が深刻になり、その原因がイギリスの工業地帯からの影響である可能性が高まると、ヨーロッパ全域で酸性雨問題を解決する組織ができあがり、さらに、米国および米国の工業地帯、とくに自動車産業、からの酸性雨の影響が深刻になっていたカナダも加わり、欧米にまたがる酸性雨の対策委員会が組織され1990年代に大幅に酸性雨問題は前進した。一方、アジアでも経済成長著しい中国の工業地帯からの酸性雨の問題が日本、韓国で問題になっているが、欧米の対策のような協調・リーダーシップは発揮されていない。
前段がながながとなってしまったが、今回は米国における民間の環境対策である。国による規制などがなくても、NPOなどの市民団体による監視が行き届いている米国では、NPOなどによる企業への圧力が非常に有効に働いている。環境NPOの代表的な存在であるエンバイロンメンタル・ディフェンス(Environmental Defense)は1989年にマクドナルドとの環境対策をスタートした。当時、マクドナルドでハンバーガーを買うと発泡スチロールの入れ物で出されていた。発泡スチロールは石油エネルギーでつくられるものだったため、エンバイロンメンタル・ディフェンスは発砲スチロールを使用しないように働きかけ、現在は発砲スチロールで出される商品はほぼ無くなった。この成功を機に、運送業フェデラルエクスプレスの運搬車を順次ハイブリッド・ディーゼルエンジンにするプロジェクトが進行している。また、世界最大のスーパーであるウォールマートとのプロジェクトではウォールマートの運搬車に運行中のアイドリングを禁止するよう働きかけ、運搬車がアイドリングをしないことでガソリン代などによるコスト削減効果が約30億円になると指摘し、ウォルマートの運搬ポリシーを変えることに成功した。また、ウォルマートで売られる野生魚全てを今後5年の間に持続性が認定されている漁場から収穫されたものだけにする方針を発表した。
このように国レベルで法律や規制で環境を守るしかないのか、あるいはNPOなどの市民団体が民間企業に積極的に働きかけ社会・環境への貢献を促すのか、いろいろな選択肢が行政、民間、市民社会に存在することがベストなのであろう。

参考記事「地球を救う、そして出費を抑える」ニューヨークタイムズ
Reference Article: William J. Holstein, “Saving the Earth, and Saving Money”, August 13 2006, Nytimes.com, The New York Times Company