俳優レッドフォード、資産家バフェットのいとこ、そしてサンタ・フェ


「パインツリー、保存かリサイクルか 悩むサンタ・フェ住民」

ウォールストリートジャーナルオンライン版 2006年7月31日


要約
アメリカのニューメキシコ州サンタ・フェ。この地域を代表するパインツリー(松の木)がここ数年の激しい干ばつで多数立ち枯れを起こしている。ニューメキシコ州アリゾナ州あわせて、2001年から2005年の4年間で8千万本の松の木が枯れてしまった。なかでもサンタ・フェ地区はこの破壊的な状況の中心で4百万本の松の木が枯れたとされている。

 このような深刻な環境危機が起こっているなか、新たなビジネス機会も出てきている。枯れた松の木から燃料を取り出す「バイオマス」という地元ビジネスが立ち上がったり、死んだ松ノ木をどう処分すべきかを解説するリサイクル本の出版や、枯れた松の木を使ったアートビジネスなどが起こっている。

 一方で、サンタ・フェ地区に山小屋を所有している国際的な俳優ロバートレッドフォードは、松の木を救うために天敵であるキクイムシピノン・イプス)を退治する活動をはじめた。

 また、松の木の消滅で打撃を受ける業者もあらわれている。ニューメキシコ州で松の実を使ったキャンディーを製造しているジョージ・バフェット氏(世界第2位の資産家ウォーレン・バフェットのいとこ)だ。2003年には松の木が減ってきたため製造を中止したが、現在は競合他社も含め中国からの松の実を使用して製造を再開した。

 松の木はサンタ・フェ地区の景観をアピールする一つの魅力だったが、急激な減少により不動産業界にも新たなビジネス機会がでてきた。これまで不動産屋は、「松の木のある住居」をセールスポイントとしてきたが、枯れた松の木があってもしょうがないというわけで、枯れ木を完全に切り倒し、今では、全米一の標高(約2,133m)に位置する州都の眺望をセールスポイントにしている。


この記事のポイント

  • 今回のこの記事の重要なポイントは、これがウォールストリートジャーナルの1面(A1)に掲載された、ということである。日本でいうならば日本経済新聞の一面に書かれるレベルの話である。話の内容は、地方都市の観光資産である松の木が干ばつによる異常気象で枯れ死んでいる中で、ただ手をこまねいているだけでなく、いろいろなアクションが起こっているということだ。このような一地方都市の社会問題が、世界的な新聞の一面に掲載されるということの意味を考える必要があるのだろう。
  • 理由の一つとしては、文中でも紹介されていたが世界的な俳優であるロバートレッドフォードが松の木を救う活動をしている、ということである。このような地域社会・環境問題の多くはその影響度合いが短期間でははかることができず、また、影響を受ける範囲・人口も限られているため、このようなセレブの人たちの活動によってメディアからの注目を集める重要である。マンハッタンとニュージャージの間を流れるハドソン川の汚染化が激しく、それを解決するために歌手・女優で有名なベットミドラーがリーダーシップを発揮しNY州やNY市および民間企業・資産家を巻き込んで緑化にあたっているケースが有名である。地域社会・環境問題を解決するためにはセレブを巻き込むことがとても重要なのである。
  • アントレプレナーの役割も大切である。環境の変化(ここでは観光資産の消滅の危機)にあわせて新規ビジネスが生まれ、そして既存ビジネスも変化を余儀なくされる。そこに新たなビジネス機会が生まれる。雇用は失われること無く、また、別の形で観光資産を作り出すのであろう。
  • 前回同様、地球温暖化は深刻な問題である。上記のようにこの変化をビジネスとして捉える動きも良いことではあるが、この危機(社会問題)をCSRに結びつけ、社会の利益になるようにしていく企業があらわれなくてはならない。松の木絶滅をじっと待つのか、それともサンタ・フェ地区の重要な環境資源を守るために企業が立ち上がるのか。企業のCSRが求められている。不動産業、旅行業などは本業を通じて、この環境資源を守るためのCSR活動をすることは企業の価値を増大し、地域社会の環境価値を減少を防ぎ、将来的には価値増大を図ることもできると考えられる。


Reference Source: Jim Carlton, "Some in Santa Fe Pine For Lost Symbol, But Others Move On", July 31 2006, Page A1, The Wall Street Journal Online, Dow Jones & Company, Inc.